まちなみ探偵団「鏝なみ・はいけん」
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(ふくま ゆうこ)
カメラとメモ帳を小脇に抱えてコツコツと探した鏝絵の数々。今はなき左官や縁のある人たちとの多くの出会いが織りなす人間模様は、泣き笑いも鏝絵の数と同じです。「まちなみ探偵団」として、鏝絵を求めて奔走中。どこかの町で出会ったらどうぞ声をかけてください。

まちなみ探偵事始

 百年経っても落ちない壁を作ろうと壁を眺めているうち、ふと目に入った不思議なもの…、ここにひとつ、ここにもあそこにもと、動物的な勘を頼りに鏝絵を探して20年余りが過ぎました。

 調査で見つけた数々の鏝絵との出会いを振り返ると、ある時は左官の技にうっとりと見とれ、またある時は珍しい図柄に心ときめかせ、その一つひとつを見ること自体がとにかく楽しいものでした。

 ちょうど100個目の鏝絵を探し当てた頃に本格的に鏝絵めぐりを企画し、千人を超える来訪者を案内してきましたが、よくコースの最後に設定するのが美郷町惣森にある山根家の「鯉の滝登り」(萩原春市作)です。夕暮れ迫る頃、長時間の見学の疲労がピークに達した参加者たちが、車も入れない登りの細い山道を歩くこと約10分。やっとの思いでたどり着き、その鏝絵を見上げた顔には今日一日の至福の笑みがこぼれます。以前、作家の荒俣宏さんを、満月の夜にわずか1個の照明を頼りにご案内したことがありました。

 荒俣さんが思わず「恋」してしまった「鯉」は、光を当てる角度によって、まさに "浮き彫り"となっていろいろな表情を見せてくれました。光の織りなす舞台芸術のようで、あらためて鏝絵の魅力を感じた場面でした。br /> また、これらの素晴らしい鏝絵を造った職人たちですが、技術と研究熱心さに秀でていた石見出身の左官職人「石州左官」は、国会議事堂や明治生命館をはじめとする、日本の近代建築にもその技を残していて、今なお、伝説のように語り継がれているのです。当時、「左官の神様」と呼ばれた職人・松浦栄吉も、この石見出身の左官職人でした。国会議事堂に行かれる機会がありましたら、天井やステンドグラスの周辺をご覧になってください。ここでも「石州左官」の技を体感していただけます。

 さて、「石州左官」の中には、本業の壁塗りを終えてから、いい仕事させてもらった施主への感謝、あるいは地域への恩返しとして鏝絵を施した人たちがいました。その心意気や熱き想いに気高い職人魂を感じずにはいられません。

 また、鏝絵を探し歩く時、所有者やご近所の方にお話を伺う機会があり、鏝絵の作られた背景や左官の生き様に触れることがあります。鏝絵を施した家の主人にそっくりな恵比寿に出会ったりすると、職人魂だけでなく鏝絵に隠された「石州左官」の遊び心を垣間見ることができ、その魅力は何倍にも膨れ上がっていきます。

 庶民文化の結晶のひとつとも言える鏝絵を見上げる私たち「まちなみ探偵団」のメンバーには、百年の時を越えて石州の左官一人一人の熱いメッセージが伝わってきます。
まちなみ探偵団 代表 福間祐子